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翔が姿を消してから久しい。
少なくとも、僕が就職してからは一回も会っていない。
でも男なんてそんなもんだとあまり気にしないでいた。僕だってブラック企業に勤めていた時は家に連絡さえ入れていなかった。
メールでは海外での仕事が忙しくて、日本には帰る予定がないということだった。
実際には――、数年前に性転換手術をして、知らない間に女性として生まれ変わって生活していた。
あの日、僕が映画祭に行くのはツィッターで知っていたのだという。
僕のツィッターアカウント名が『しらすラーメン』だったから、僕のことだと認識していたらしい。
つまり再会は偶然じゃなかったのだ。
『過去』ってそれかよ。
こいつ、なんでもっと早く言わなかったんだよ。
遅くとも、兄がつきあおうなんて言ってしまう前に・・。
騙されていたという怒りよりも、翔の女性としての完成度が高すぎて、呆れ果てる。
翔は祖母が緊急入院したときいて、もしかして命に関わるような大病か事故にでも遭ったのではと思い、病院にかけつけたのだという。
「ばぁばは、なんですぐに私だってわかったの?」
「わかったよ。桜の若い頃に生き写しだもの」
桜は母の名前だ。やはり栞・・いや翔は母に似ていたのだ。
「翔が女の子になりたがっているの、なんとなく気づいてたよ。翔が桜の服を着ていたり、メイクしたの見たことがあったの。それでも小さい頃からままごととかが好きな子だったから、あまり驚くこともなかったのよ」
「ねぇ、よかったらばぁばから父さんに、私が性転換手術をして女に変わった翔だって言ってくれないかな――」
「そんなことくらい自分で言えないのか!」
祖母の代わりに翔に言葉を放ったのは、病室に入ってきた父だった。
数年ぶりの親子感動の再会――とは縁遠い口調だ。
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