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昨日のサプライズがあまりに強すぎて、突然目の前に葵が現れても、それが弟の友達だったと知っても、意外にも冷静にうけとめている自分がいる。
「葵ちゃんが樹君と付き合ってるって知って、これはそろそろカミングアウトの潮時だなって思ったんだ。葵ちゃんが自分も子供のことちゃんというから、私も家族にちゃんと会いに行って、本当のこと話してって言われて、約束したんだ」
「樹君、この子凛(りん)って言うの。凛、挨拶して」
少年は「こんにちは!」と、僕に勢いよく頭を下げた。
「長い間、黙っててごめんね。樹君のことが本当に好きだったから、言ったら別れることになっちゃうのかなと思うと、なかなか言えなくって・・。せめてもう一度会って謝りたくて・・。ごめんなさい」
葵は頭を深く下げた。
凛も葵につられて、もう一度同じように頭を下げた。
「葵はこんなかわいい子がいるのに、なんで黙ってたの? 今までデートしている間、実家のお母さんがみてくれてたりしたんでしょ? デートする間、この子が母親と一緒にいれなかったのが自分のせいだと思うと、なんか心が痛いよ」
僕は母を小学校の時に亡くしているから、こんな小さな子が僕のせいで母親と一緒にいれなかったなんてきくと、胸が締めつけられるように苦しくなる。
「一番許せなかったのは、3年も一緒にいたのに、何も言ってくれなかったことなんだよ。葵のことは好きだった。もし最初会ったときから、離婚して子供がいるって知ってても、好きになってたと思う、なのに――」
さっきまで元気に走り回っていた少年は、僕達を不安そうに見上げている。
「葵ちゃんも私と同じだよ。ずっと言えずに悩んでいたんだよ。おにいちゃんだって、私の為に父さんに言ってくれたじゃない」
翔が必死で葵をフォローする。
「早めに話さなきゃとは思ってた。でもいつも言えなくって、結果ずっと騙すことになっちゃって・・。ごめんなさい・・」 と、葵は泣き崩れた。
「凛君が心配するからさ、泣かないでよ」
僕は少年の目線まで屈みこんだ。
「凛君、よかったら、ラーメン食べにおいでよ。おにいさん・・いやもう30歳になったから、凛君にはおじさんかな? おじさんが美味しいラーメンつくってあげるからね」
そういって頭をポンポン叩くと、凛少年は「ありがと、おにいさん」と笑顔をつくって喜んだ。
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