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砂浜の流鏑馬
逗子の流鏑馬は11月下旬の日曜日、逗子海岸の浜辺で行われる。
逗子海岸の流鏑馬は歴史が長く、古くは吾妻鏡で笠懸をしていた頃から始まるのだそうだ。
逗子海岸の流鏑馬は海に向かって矢を放つ。
海岸に馬を馳せ、矢を射る武者の姿は本当に美しい。
浮足立った夏の時期を終えて、厳正な秋を彩る絵巻のような光景だ。
僕はこの流鏑馬が日本で一番見応えがあると信じている。
砂浜に馬を走らせるだけでも大変だというのに、風も強い。
さらに海側から太陽光が射し、的がみづらくなる環境になるにもかかわらず、敢えて海を背景にした英姿を魅せてくれるのだ。
家のこんな近くでやってくれるのに、観にいかないなんて失礼だ。
逗子に帰ってきてからは毎年みにいくのが最近の恒例となっていた。
浜辺には射抜く姿を観ようと、大勢の人がいた。
その中に智と翔、僕、そして葵と凛がいた。
あの披露山公園での再会から、僕と葵はまた付き合い始めていた。
葵は時々凛も連れてくるようになった。
この数か月で僕と凛の仲はかなり深まった。
凛と二人だけで過ごすこともあったし、凛の元気さや時に見せる生意気さが愛おしくて仕方なくなってきた。
一人で美味しいものを食べると、これを食べさせてあげたいと思う人が、一人から二人に増えた。
葵と凛だ。
葵と前の旦那が結婚していた時にできた子供だと思っても、過去は過去だし、凛は凛だ。
「葵、この流鏑馬、これから凛と一緒に毎年みに来ようよ」
あまり考えておらず、何気なく口にした。本当にそう思ったのだ。
「それって・・。嬉しい、ありがとう」
葵が少し感動したような表情を見て、さっき自分で発した言葉がプロポーズじみた言葉だったことに初めて気づく。
急に焦って体温が高くなり、服の下にじわっと汗を感じる。
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