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でもふと思う。
ここ数ケ月、葵と凛、3人で生活を始めることを前提に将来のことを考えることもあった。
その想像に全く違和感はなく、むしろ楽しい将来設計として僕の頭には位置づけられていた。
僕は覚悟を決め、ぐっと背筋を伸ばして、改めて葵に向き合った。
「葵、よかったら僕と一緒に、毎年この逗子海岸で流鏑馬を見てください」
葵は緊張していたのか、僕がプロポーズの言葉を言い終わらないくらいのタイミングで「はい、お願いします」と答えていた。
知らない間に、智と翔が聞いていたようで、まだ演武も始まっていないうちから拍手が鳴り響いた。
見渡すと、周りにいる他の人たちもきいていたようで、拍手はどんどん大きくなっていいった。
僕たちは照れながら「ありがとうございます」とお礼を言ってみたものの、頭の中では、もし逗子の流鏑馬が悪天候で中止の年があったらどうしよう、などとどうでもいいことを考えていた。
「すごい、公開プロポーズなんて!」
拍手が落ち着くと、翔が僕を茶化した。
翔のネイルが施された左手薬指には、石のついた指輪がされていた。
「お前、指輪してんじゃん!」
「そう、ペアリング。実は夏から真剣に付き合っている人がいるんだ!」
「え、どんなヤツだよ」
翔は僕の耳元に顔を近づけると、今付き合っている彼氏がどんなやつか囁いた。
「お前、すげえな」
翔は栞の顔になり、照れたようにVサインをした。
海岸では騎射に先立ち、馬に乗った奉行が天に向かって鏑矢を弓につがえた。
矢を構えた先には、鳶達が生意気そうに風に乗り、大きな輪を描いている。
演武開始の和太鼓の音が、鳶達が舞う海岸の青空を震わせ、波の音と共にとけこんでいった。
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