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僕が中学生になる前に、母は息をひきとった。
せめて小学校を卒業するまで、学ラン姿を見せるまでは生きていてくださいと、祖父の仏壇にあれだけ祈ったのに、その祈りすら届かなかった。
もちろん母が亡くなった時はそれなりの覚悟ができていたものの、それでもゾンビになってでもいいから生きていて欲しかったとさえ思っていた。
ブルーモーメントには幽霊や妖怪が現れる、と僕に教えたのは母だった。暗くなる前に早く帰ってらっしゃいよという母の脅しだった。
でも母が亡くなってからはしばらく、敢えて夕暮れ時になると海岸に行くようになった。
幽霊でもいい、母に会いたかった。
藍色の空の下で待っていれば、母が会いに来てくれるような気がしていた。
あれから18年が経ったのだ。
石段を上りきると、無数の墓石が視野に入る。
母はこの霊園に眠っている。
母の墓石前で花を添え、線香に火をつけ備えると、煙が白い筋をうねらせて空に上っていく。
母さん、僕は30歳になりました。
本当なら結婚報告もできるかと思っていたけど、それはまだ先のようです。
でももしかしたらいい出会いがあったかもしれません。
どうか、天国から優しく見守って、応援してください。
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