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初夏の花火
逗子海岸で人いきれの中から現れた栞は、黒地に色彩豊かな花火が咲いた爽やかな浴衣姿だった。
栞の指先にも彩り鮮やかな火花を散らす花火ネイルが咲き誇っていた。
毎年晩春から初夏への変わり目に開催される逗子花火大会に、栞を誘った。
栞とは頻繁に連絡をとっていて、今日は栞に付き合おうと言うつもりでいた。
浜辺で夜を待ち、打ち上げまで後少しという時に、別れた彼女の葵(あおい)からLINEにメッセージが入っているのに気づいた。
「元気ですか? 今日逗子海岸の花火だね」という内容のメッセージを見ると、黙ってスマホをしまった。
今は、新しい恋に集中しなければ。
僕は栞の顔を見て、深く息を吸った。
「栞ちゃん、よかったら、付き合ってくれないかな?」
夜の空に明るい光がちりばめた。
「ごめん、それはムリ!」
まるで銃声のような花火の爆発音が、僕に突き刺さった。
逗子の花火大会は夏の到来を告げるものなのに、僕の夏は既に今日で終わったかのように思えた。
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