いつかの笑顔

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いつかの笑顔

遠浅で波の穏やかな逗子の海は、シーカヤック初心者に向いているという。シーカヤックは海でのるカヌーのことだ。 梅雨の合間の6月の週末、僕はふられたばかりの栞とシーカヤックをしている。 「私には過去があるから」 それがふられた理由だった。彼氏がいるわけではない。でもけっして僕が嫌なわけではないのだと。 過去ってなんだよ。 如何わしい仕事をしてたとか? 人を殺したことでもあるとか? かなり粘ったけど、理由は結局教えてもらえずじまいだった。 だったら友達として遊びに行こうと、シーカヤックに誘った。 シーカヤックには智と智の彼女も誘って、2人乗りカヤックを2艇とウェットスーツをレンタルした。 カヤックとパドルをもって太陽の季節碑から浜辺におり、葉山方面へ向かって漕いだ。 栞は思いのほか体力がある。智の彼女が必死で漕いでいるのに、僕と栞のスピードは断然に速かった。 日陰茶屋がやっているフレンチレストランが見えると陸に上がった。 僕たちだけだったらもっと遠くまで行けたと思うが、智の彼女が疲れているようだ。 「逗子の海底って真っ黒なんだなって思ってたら、ウニがたくさんいるんだねっ!」 栞が笑った。 雲間から太陽の光が明るく差し込み、海面を光らせた。 キラキラという音が聞こえてくるくらい、僕の目には眩しく映った。 この笑顔、どこかで見たことがある気がする。 彼女は、僕の知っている誰かに似ている。 でもそれが誰だったのか思い出せずもやもやしていると、智達が岸に辿り着いた。
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