いつかの笑顔

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智がシャワーを浴び終わって煙草を吸いに行っている間、僕は店の外にある自販機へ向かった。 落ち着かない心持のせいか、まだ体が波に揺られている気がする。 遠い昔、幼い僕は潮風を頬にうけながら、あの笑顔をずっと待っていた気がするのだ。 自販機にコインを入れ、コーラのボタンを押した。 缶が音を立てて重そうに落ちてくる音と共に、あの笑顔が誰に似ているのかハッキリ思い出した。 母だ。 大好きなコーラ断ちをしてまで回復を願った、母の笑顔だ。 栞は母に似ている。 僕のタイプは母だったのかというマザコンを自覚しつつも、同時に栞が言っていた『過去』が気になっていた。 栞と初めて会ったのは逗子映画祭のブルーモーメントだ。母が魑魅魍魎と遭遇すると言っていた逢魔時。 栞は幽霊になった母なのではないかと、コーラを開ける手をとめてふと思った。 長い年月を経て、やっと会いに来てくれたのではと。 だってあの日は僕の誕生日だったから。 でも幽霊だとしたら、あんなかわいい幽霊がいるだろうか? 僕は一人笑いをしながら、疲れた体にコーラを流し込む。 体内に炭酸が心地よくはじけた。
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