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『過去』
祖母は幸いにも頭を打ったダメージはなかった。
ただ少なくとも数日は脚を吊って固定させなければいけないということだった。
「迷惑かけちゃって、悪いね」
いつも口うるさい祖母がしおらしくしているとなんだか愛おしい。
病室のドアがノックされる音が聞こえた。もう父が着いたのだろうか。
「どうぞ」と声をかけると、静かにドアが開き、栞が顔をのぞかせた。
栞は心なしか微かに震えている気がした。
「翔(かける)なんだろ?」祖母が栞の顔を見て、微笑んだ。
彼女は、硬直した顔のまま、頷いた。
翔。
それは僕の2つ下の弟の名前だった。
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