雪堂にて

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 あまりの寒さに、俺は目を覚ました。  ここはどこだろうか。  辺りは暗く、場所を確認することができない俺は、極度の不安感を覚える。自分が今いる場所が屋内であるようだと認めたのは、壁に穿れた小さな明かり摂りの小窓から射す月光と、上半身を起こす為に支える手の平が、冷たく、堅い感触を伝えてくることから、なんとか察せられた。  冷たく、堅い床は、そろりと動かした俺の手がハッキリ伝える凹凸の感触から、どうやら木製であるらしいことがわかる。  微かな月光は小窓の周囲を薄ぼんやりと照らす事に留まっている。その頼りない灯りが照らすこの建造物の壁もまた、木製である。その壁は、薄明かりの効果を加味しても重い色の茶色だった。  胸が、高く、はやく鳴り打つのがわかる。  体の表面が強い寒気を感じていることに反して、こめかみや首元には冷たい汗をかいている。  助けを呼ぶために叫びたい衝動に駆られるのを堪え、俺は必死に記憶を遡る。  激痛。  後頭部に鈍い痛みが走る。  何かにぶつけたわけでもないのに。  鈍痛から庇うように頭を抱え込むも、それは気休めにもならない。  しかし、その『蘇った痛み』で、俺の記憶はようやく呼び覚まされた。  俺は永倉エイジ。しがない男子大学生。  実家暮らしの俺が住む同じ市内に建つ、祖父母の家に泊りにやって来たのだ。この祖父母というのが代々農家だったのだが、ある時に畑を埋め駐車場にしたり、アパートを建てるなどして莫大な利益を得た。  もともと農家らしく広い敷地に建っていた木造の平屋を鉄筋コンクリートの豪邸に建て替えたり、離れやガレージを別に作るなど、その様相はまさに土地成金だ。  その祖父母の大邸宅のある敷地の片隅に、古い木造の御堂がある。それは祖父母が土地成金と化す前から、先祖代々祀る豊穣の神を祀るためにある歴史ある建造物である。  そうだ、俺が今いるここは、御堂の中なんだ。
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