雪堂にて

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「え?」  まさか。僕以外にも御堂の中に人がいるとは、晴天の霹靂である。よもや、俺を殴りつけた輩ではあるまいか?  いや、これもまた不可解だ。  御堂は狭い。狭く、鍵が掛ってはいないとはいえ密閉された空間にいれば、互いの息遣いくらい聞えるはずだろう。  どうして俺は気付かなかったのだろう。  なるほど。確かに誰かが神棚の近く、壁にもたれかかって座っている。  俺は暗い御堂に再び足を踏み入れた。 「あのさ。電気ないの?」 「あるわ。右の壁にない?」  月光が作る自分の影になって、スイッチらしきものを視認することはできない。そこで、僕はそろそろと壁に手を這わせて、スイッチの在り処を探る。  難なく見つけて電灯を灯すと、その瞬間、俺は息を呑んだ。  壁際に倒れていたのは、これまた親戚の男性である。  その様子は明らかにおかしい。頭から血を流しているのだ!  俺は泡を食って近づくと、肩を揺すろうとして逡巡し、手の平を彼の口元に近づけた。  息はなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加