品川駅~

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何となく 気分が落ちつかない。 いつもより遅く起きた朝、 キッチンから母親の朝食をせかす声が聴こえる。 『早く食べちゃってくれない』 『欲しくないかも』 『もぉー先に食べちゃうね』 頭が冴えず、ベットから起き上がる気がしない。 寝付けないのに、起きたくない。 陽が高くなってきているのに。 部屋の外の気配が気になり、 『ちょっと、出てくるね』 『あそー いってらっしゃい!』 いつもの母の特徴的なイントネーション。 鞄と読みかけの単行本を片手にふらっと外に出てみた。 外に出てから、日焼け対策をしていないことを後悔しつつも 戻る気もせず、歩きを進めた。 陽が眩しい。 何かにつけて 落ち着かない。 外には出てきたものの行くあてもなく。 1人になりたいはずなのに人の気のない処へ 行きたいわけでもなく。 とりあえず、駅前の昼からの飲める処で 泡をグラスで飲もうと、 店をもとめていた。 いつもの見慣れたお店に入り、 窓側のテーブル席に案内された。 本のページを開いてはみるものの 眼が文字を追えず、諦めて、窓の外を眺めた。 落ち着かない。 思考力が低下し、考えることを拒否していた。 原因は 鞄の中にある。 昨日、郵送で手元に届いた。 差出人の名は書かれていなかったが、 見覚えのある筆跡。 それとなく、雰囲気は読めていたが、 いざっとなると、逃げ腰になってしまった。 『コウリョウ』 ふっと そんな言葉が頭をかすめた。 音で聴くイメージと 光景が 今の気分だった。 どんな漢字だったかしら。。。 『荒涼』 文字面とイメージが一致しない。 同義語で置換えると イメージが腑に落ちるのに、 文字から浮かべるものは、 意味とかみ合わない。 同義語の中の 異分子。 きっと『涼』に魅かれているのだろう。 落ち着かない。 何気に眺めている外の景色に 駅の看板が目に留まった。 気晴らしに、脚を伸ばしてみようかしら。 財布を改札にタッチしてから 行先を決めた。 子供連れの若い夫婦の楽しげな声に誘われて、 後を付いていくことにした。 品川駅から横浜方面へ。
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