記憶の欠片

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『D.C.で乱射事件』  これが、礼緒菜のアメリカ出張の理由。  上司でもある義父と一緒に行く予定だったのだが。  記憶障害が出る前なら……。  成人してから狙われている所為か、はたまた銃撃戦を目の前で見た所為か、簡単に倒れなくなったから、『アメリカ出張』が可能だったんだけど……ね。  今は、無理だ。  礼緒菜は、探し物が見つからなかったらしい。  無言で戻って来たが、機嫌が素晴らしいくらい低い。  そこへ義父の声が降ってきた。 「礼緒菜、D.C.へは行かなくて良い」 「何故ですか!?」 「今のお前では、足でまといだ」 「………」  ストレートな言葉に、無言の礼緒菜。 「誠一さん?」  彼の言葉の意味を確かめるように声を掛ける。 「銃にトラウマがあるお前が、今の精神状態では役に立たない。逢坂君のサポートをしなさい」  返ってきた言葉は、礼緒菜の行けない理由。 「……なるほど」  納得する俺。 「……辞めます」 「礼緒菜?」 「そんな同情を受けるくらいなら、弁護士を辞めます」 「同情じゃないよ」 「これ以上の屈辱はないわ!」  同情、と受け取ってしまった礼緒菜。  言い終わるなり、書斎へ入ってしまう。  どさどさ、と、何かをやらかしてる音がする。  次いで、義母の悲鳴。  SPと俺で礼緒菜の行動を止める。  ゴミ箱の中に、礼緒菜の物――弁護士グッズ――が捨てられていた……。 .
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