記憶の欠片

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『礼緒菜と君の将来の為にも、離婚を考えてくれないか?』  義父に掛けられたその言葉は、俺の心を真っ暗闇にさせた。  礼緒菜本人じゃないところが、ほんの少し、俺を冷静にしてくれた。  『別居』、『1ヶ月』。  これは、俺が決めた事。  『離婚』の言葉が出た以上、礼緒菜に許可無く会うことは無理だろうから。  実家で預かる、と言う義父に、否やと言えるはずもなく。  どうやって病院の外に出たのか、わからなかった。  とぼとぼと帰路を辿る。  不意に携帯のバイブ音。  スケジュール予定のお知らせだった。  婚姻届けを出した後、式を挙げて無いので、礼緒菜へのサプライズを用意していたのだが。  ――直接渡せないんだろうなぁ。  結婚指輪と、2人お揃いで持っていたかったベビーリング。  今日出来上がり予定だったんだ。  ジュエリーショップで買い物を済ます。プレゼント用に包んでもらう。  家に帰って、礼緒菜の荷物の用意。出張用のキャリーと長期間用のキャリー。着替えを詰めたバックと小物を詰めた旅行用のバッグ。  病院へ持って行き、公私の話を礼緒菜にする。  終始俺に向かって敬語の礼緒菜……。  ――ものすごく切なかった。 .
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