輝く海

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コトの発端は1年前だ。外回りから帰社して、ロビーで彼と鉢合わせした。須田克己は元上司、いわゆる社内恋愛で3年目だった。上司と部下という関係から私たちは周りの目を気にして会社には内緒で付き合っていた。彼がこっそり目で合図を送ってくる。私が軽くうなずいて返事をする。何食わぬ顔ですれ違い、私はエレベーターに乗り込む。扉が閉まるまで彼の後ろ姿を見送る。オフィスに到着するころには私のスマホに彼からのメールが届いていて、書かれているのは時間と場所。この近くのダイニングレストランで待ち合わせということだ。 数年前、お世話になった先輩が葉山で挙式した。身内だけの挙式で私は参列することができなかったが、あとで見せてもらった写真に私は目を奪われた。キラキラと輝く海には帆を張ったヨットが浮かび、青い空には白い雲が浮かんでいた。そんな景色をバックに仲良く二人並んでいた写真。グレーのタキシード、純白のドレス。招待客の手にはおそろいの白地の帆布トート。 引き出物のカタログと焼き菓子を葉山トートと呼ばれるそれに詰めてお渡ししたのだとか。白地に濃紺の文字でHAYAMAMARINAと印字されていた。焼き菓子は有名なパティスリー ラ・マーレ・ド・チャヤのフルーツパウンドケーキ。カタログは都内の老舗デパートのもの。洗練されたオシャレなおもてなしに私は心が弾んだ。結婚するときは海のそばで、いや、この葉山マリーナでと心に決めていた。そんなことを言うと先輩に相手を見つけるのが先ね!と笑われた。
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