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そのときには付き合い始めた克己がいた。先輩の写真に自分と克己を当てはめて、ひとりで勝手にドキドキしていた。
あれから3年。営業日報もそこそこに切り上げる。今夜会うことは1週間前から約束していた。もうすぐ付き合い始めて3年目の記念日。きっと……そろそろだ。スキップするのは心の中だけにして私はオフィスを後にした。
しかし、オフィスを出たところで同僚と出くわした。ひとつ年下の竹井真凛だ。歩いてくる方向からして化粧室から出てきたようだった。彼女の目元はアイラインがにじんで地味なスーツと同じくグレーになっていた。私に見られていたことに気付いた彼女は、慌てて口角を上げて無理に微笑んだ。彼女はひと月前まで地方の支社にいて最近となりの課に異動してきた。もともと地方の人間でこちらには知り合いも少なく、昼もポツンと弁当を食べているのをよく見かける。課は違うものの同じ営業部で私とはかぶる仕事も多く、話す機会も多かった。浮かない顔をしている彼女を放っておくこともできず、声をかけた。「飲みに行く?」と。
もちろん彼女も克己と私のことは知らなかった。元上司と久々に飲みに行くけど一緒にどう?、と。竹井さんは遠慮したけど、話を聞いてもらいたかったのか2度ほど首を横に振った後で縦にした。彼女と一緒にレストランに向かい、克己の待つテーブルに向かう。きょとんとした彼の表情を見つめながら、部下らしく私は敬語を使った丁寧な言葉で経緯を説明した。自己紹介がてらに竹井さんが名刺を差し出すと彼も自分の名刺を差し出す。まるで営業みたいだねと3人で笑いあった。
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