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その日はその場でお開きになった。落ち込んでいた竹井さんの顔も明るくなり、安心してそれぞれに利用する駅に向かった。
つり革につかまり、がっくりした気持ちで暗い車窓を眺める。本当なら今日ここで彼からのプロポーズを受けていたかもしれない。“葉山に下見にいこうか?”って。私はぼんやりとその瞬間を描いていた。どんよりとしていた雲から光が差し込み、一気に雲がはけ、晴れ渡るような瞬間。きっとこの次のデートこそプロポーズしてくれる。人生最高の瞬間を待つその時間も至福ではないか。その期間が少しだけ長くなったことに、そして、彼の優しく振る舞う彼の姿を見れたことに感謝しなくちゃと自分に言い聞かせていた。
しかし、夏のボーナス戦線に向けて私も彼も忙しくなってしまった。毎週のデートもままならなくなり、2週に一度食事に行くのがやっとだった。バタバタとする社内。書類で山積みになるデスク。6月、7月。いつの間にか梅雨も明けていた。
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