輝く海

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久々に残業もなくエレベーターを降りてロビーに出たところで私は足を止めた。ガラスの向こうに克己が歩いている姿が見えたからだ。路上駐車のボンネットに夕日が当たって反射し、逆光だったけれど間違いなかった。克己も定時で上がれたんだ、なら軽く食事くらいと思い彼に追いつこうとさらに駆けだした。でも自動ドアを目の前にして私は走るのをやめた。車が走り出して光が消えた。長身の彼の向こうに髪をひとつに束ねたグレーのスーツの女の子が見えた。竹井さんだった。 にっこりと笑う彼女。私からは克己の後ろ姿しか見えなかったけれど、胸の中はざわついて、いつの間にか無意識に、すり足でふたりの後を追っていた。 生い茂る街路樹の下を180cm近い彼と165cmの彼女が並んで歩いている。方向は彼の利用している地下鉄の駅だ。様になる男女。後ろから見ていると、なにも悪いことはしていないのに、どうにもやましい気持ちになる。声をかければいい。定時で上がったらふたりを見つけたの、そういえばいい。一緒に飲みにいかない?と誘えばいい。でもそれを言ってはいけない空気がそこには漂っていた。
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