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空は、今日の勤めを果たした、煌々と輝く太陽の代わりに、じわりと心に染み込んでくるような黄金、茜、蒼、黒のグラデーションが空を染めつつあった。
地に倒れ、空を見上げる私は、その美しさを改めて目に焼き付けながら、荒い呼吸を治めていった。
鍛錬の間、ネイは夕飯の支度や研究をしながら、木の棒や土が詰まった袋で私の鍛錬に負荷をかけ続けた。
手を抜けば棒で叩かれ、手を抜かなければ布で負荷を加えてくる。
なんという軍隊式であろうか。
軍隊に所属していたことは無いため、あくまで想像の話ではあるが、この鍛錬はそれほど厳しいものであった。
「さあ、今日はこれ位にして先に風呂に入ってしまえ」
ネイはいつも通りにそう言った。
私はあまりの疲労に唸りながら、足を引きずるようにして、風呂場へと向かう。
風呂場と言っても、屋外にある柱と壁だけがある空間で、汲んできた水とボロ布で体を拭うだけの場所である。
私がよく知る風呂を使いたいなら、魔法を覚えて自分で作れ、と言うのがネイの言い分であった。
しかし、私は風呂を温める火属性の魔法は使えない。
ネイは魔法で風呂を作っている様だったが、私の為にそれを残してくれるようなことはせず、少し歯痒い思いをしている。
薪を風呂に使うのは勿体無いようで、薪すらも使ってはいけないこの現状を目の前に、私は自身の立ち位置について悩まされる。
私は招かれた客だと思っていたが、当のネイはどうも私を家族のようなものとして扱っているようだ。
私が体を拭いていると隙間風が吹いた。
「寒い」
仕切りはあるがここは屋外であり、屋根もなければ床も無い。
風が吹くのは当然のことであった。
当初、金属魔法で部屋を作ることも考えたが、私は魔武器、リライブを持っていない。
そのため、金属魔法を複数発生させることが出来ず、完全密閉空間で入浴するよりは、風を操って風が吹かないよにする方を良しとすることにした。
そして、今日の入浴という名の沐浴を終えるのであった。
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