そして私と海の向こう

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ネイの家に入り、豆を主食とした簡素な食事を済ませる頃には、日は完全に沈みネイの魔法で作られた明かりのみが家の中を照らしていた。 裏山に沢山生えているドクダミに良く似た植生をしている薬草を煎じたお茶を飲んで一息ついていると、ネイは自室から持ってきた紙の束とペン、そして二冊の本をテーブルの上に置く。 「さて、昨日でお前さんの話は聞かせて貰ったからな。その対価として、お前さんにはこれから儂が知る全ての属性の魔法、そして世界の知識について教えようと思う」 その言葉に、疲れと眠気で重たくなってきた目が見開くのを感じた。 「風と金属魔法以外もですか」 私を見ながら、ネイは不敵に笑う。 「出来ないと思うか。しかし、お前さんは気付いているだろう。儂は、水、火、光、土、樹の魔法を普段から使っておる」 そう言われ、私は今までの生活の中でネイが魔法を使っていた様子を思い出す。 あまり自覚はしていなかったが、食器洗いや火起こし、部屋の明かりに浴槽、畑の管理まで、様々な場面で魔法を使っていたような気がする。 「それだけではない。他の属性についても儂は使えるぞ」 「そんな事、あり得ない。と思ってしまいますね」 私は素直な感想を口にする。 私のような複数属性を持つ者が極めて珍しい世界で、二種類を超え、これ程までに多くの魔法を操る事が出来る人物が居るとは、にわかに信じられない。 「信じるかどうかはお前さん次第だ。だが、儂を信じて教えについてくれば、お前さんはより高位の魔法使いになれるだろう。すぐに信じろとは言わん。それに、お前さんが元いた国に行くにも時間がかかる。それならば、ここで魔法や世界の事を学びながら、これからの事を考えていけばよい」 ネイはそう言うと、紙の束をテーブルに広げる。
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