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私の名前は木下恵悟、いや、ケイ・アンダーだったか。私は今何処にいる。見えない、聞こえない、いや明るい、暗い、何かがざわざわと鳴る。いや、これはガラスの音、金属の音、いや水の音か。何かが私に触れた。いや、私が何かに触れた。もしかしたら、嗅いだのかもしれない。あれ、消えた。何だか、苦しい。痛い。悲しい。切ない。嬉しい。
私の全てがぐちゃぐちゃになる。
そして、その感覚が止まったとき、私は地面に叩きつけられ、“目を開けた”。
滲む視界。息を吸うと新鮮な空気が肺に満ちる。
そして、「ゲホッ、ゲホッ」と肺が拒絶反応を起こしているかのように激しく咳き込んだ。
鼻腔や喉に引っかかっていたのだろう、淡い赤色をした謎の液体が地に吐き出される。
目のピントが合い、咳の発作が止まると、私はようやく周りを見回す余裕ができた。
ここは森の中であった。
それもただの森ではないようで、木々の一本一本が巨木といって差し支えないものであって、樹齢を想像することすら出来なかった。その木々の根元には、シダ植物やコケ植物が群生している。
また、白や黄色の小さな花を咲かせている一部のツル性植物は、巨木に何本もの梯子をかけたかのように、ツルを伸ばしていた。
それらの木々の中でも特に変わっているものは、私の背後にあった木であった。
その木は周りの木々と比べると背は低いものの、それでも樹齢、数百年は経過しているであろう大木であった。
大木には様々な強さの光を帯びた、幾つもの色とりどりな木の実が成り、それは水風船のように多くの水分を含んでいるように見える。
大木は、私が今まで見てきたものの中で最も美しく、神秘的なものであった。
私はその美しさに惚けてしまっていたが、意識が戻ってくると私の周りには赤い液体と割れた水風船のような木の実の皮があることに気がついた。
そして、今までの私の体と異なる、幼い男性の肉体があることも。
『この木は、命を生み出す木なのだろうか』
私は日本語を話したつもりであったが、その声は音量を伴っておらず、息は音を作らず、口はただパクパクと動いているだけであった。
恐らく、まだ肺と声帯が空気に馴染んでいないからであろう。
そう考えた私は、声が戻るまでの間、魔法を使って声をつくることにした。
魔法は何の問題もなく使うことができた。
しかも、精度や練度だけで言えば、今までよりも格段に上手く発動しているようにも思える。
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