そして私と聖なる木

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私が魔法の出来を確かめていると、近くでカラン、と何か木製の物が倒れる音が聞こえた。 その音がした方向を向くと、そこには杖を落とした状態で固まる、口髭をたっぷりと生やした老人の姿があった。 「おおお、まさか、この様なことが」 驚きに目を見開いた老人は、地に落ち、割れた木の実と私を交互に見る。 「お前さんはこの木の実から生まれた。それに間違いはないか」 私は「どうやら、そうみたいです」と言葉を返すと地上に降り立つ。 「そうみたい、とは、確信がないのか」 老人が何やら困惑したような表情を浮かべると、私は首を横に振る。 「この木の実から出てきた事は間違いないです。しかし、私の感覚では、木の実の中に魂を押し詰められたと思ったら、地面に落とされ、気がついたら今までと違う体になっていました。なので、生まれた、と言うより作り変えられた、という感覚に近いです」 老人はいつの間にか取り出した手帳のようなものに、私の話をガリガリと記録していた。 「この木の実に入るまでの感覚があったのか」 そうしてメモを終えた瞬間、老人は目線を上げ、私に問いかける。 「そうですね。色々な情報が一気に流れ込んできて大変でしたが、視覚、聴覚、嗅覚、触覚はあったはずです」 老人は私の話を聞きながら、また猛烈な速度で記録をとる。 その様子に私は一つ、素朴な疑問を抱いた。 「先ほどから何を書かれているんですか」 私の問いに、老人は手 帳を書く手を止める。 そして、私の後ろにある、神秘的な木を指差した。
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