第1章

2/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「……月が綺麗ですね、か」  僕は大学の講義を聞きながら、全く関係のない愛の言葉を呟いた。僕には今、好きな人がいて、彼女に対してどうアプローチを取ればいいか悩んでいる所だ。  この一文は夏目漱石という小説家が英語教師をしていた時、『I LOVE YOU』の訳し方をひっそりと変えてしまったことで有名になった愛の言葉なのだ。僕は文学少年ではなくどちらかといえば理系男子なのだけど、彼女に対する思いからロマンチストへと変貌しようとしている。  ……とてもじゃないが、愛しているとはいえない。  僕は自分でも驚くほどに日本人だなと思う。体型だって普通で、プールで体を鍛えているわりに華奢な方だ。彼女に対して強くアピールできるものはないし、直接告白をするなんてできるはずもない。だからこそ今、アプローチの仕方を練っている所だ。  彼女はとても美しく大人の色気を持ったミステリアスな女性だ。髪を明るくしてパーマを掛けているが、野暮ったい感じはないし、清潔感がある。そうかと思ったら発言は結構無茶苦茶な所があり、それがまた僕の恋心を加速させていく。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!