第1章

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 取り分けて貰って一口啜ってみる。旨い、とてもじゃないが家で作って食べられるものじゃない。  パスタなんかは冷凍食品などで手軽に作れて美味しいものが多い。なのにこれはそれを遥かに凌いでいる一品だ。自炊している僕にとってこのパスタは魔法で作ったようなものに感じた。 「うん、美味しいね。隠し味に柚子胡椒が効いてる」  彼女は冷静にパスタを分析する。僕も彼女と出会うまでは同じようにできていただろう。今はただこれが美味しい、という形でしか理解できていない。  この味が元々美味しいものなのか、それとも彼女と食べているから美味しいのか、すらわかっていないのだ。 「……そうですね」  僕は彼女のパスタの食べ方に欲情していた。するっと口の中に吸い込まれていくパスタを見て彼女の口に目が奪われてしまう。僕の体もすでにパスタのように茹で上げられている、そのまま口の中に放り込まれたどうなってしまうのだろうか。 「どうしたの?」 「いえ……」  僕の妄想は止まることなく、彼女の行動で全てが新しく塗り替えられていく。今ここで犬になれ、といわれれば、僕はチワワにだってプレーリードッグにだってなれるだろう。僕の考えられる全てを使って彼女の思いに応えてしまいそうで、自分が怖い。
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