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「ふーん、変なの」
そういって彼女は再びパスタに夢中になった。
未だに僕は彼女の年すら訊けずにいる。彼女がプールの受付嬢と飲食店で働いているということは知っているのだが、それ以外の情報は全くわかっていない。訊けば答えてくれるだろう、だが僕の頭はすでに暴発寸前だ。これ以上、情報をいれなくても彼女が好きだということには変わりなく、ともかくこの気持ちをいって楽になりたい。
「あー美味しかった」彼女はそういって満足そうにお腹を擦った。「デザートはどうする?」
「……頂きます」
僕はゆっくりと頷いた。デザートが欲しいというよりも彼女との時間を延ばすことの方が先決だ。甘いものは苦手だが、彼女の幸せそうな顔が見れれば、僕の思考も甘くなる。
「……んー、どれにしよっかな」
そういって彼女はメニューを見て吟味する。彼女が別のものに夢中になっている時間だけが唯一、僕でいられる時間なのだ。一緒にいたいという引力が働くのに、いざ近づけば僕の体は麻痺してしまい斥力が働く。
彼女は月のような女性だ。
デザートが来て、僕達は一緒に食べてご馳走様をする。彼女の満足そうな顔を見れただけで、僕の心は満たされていった。
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