無彩色の桜

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「無視かよ、感じ悪いな」 はっきりと聞こえる舌打ちと共に怒りの言葉をぶつけられたのは、入学式の次の日のことだった。 これだけは弁解しておきたい。僕に悪意なんてこれっぽっちもなかったんだってこと。大学生活を出来るだけ平穏に平和に、静かに過ごしていくのが僕の心からの望みなんだってこと。 学科別のオリエンテーションが二時間程行われた後、両手が一杯になるくらいの大量の資料をふらふらとした足取りで両脇に抱え込んだ僕は、やっとのことで建物の外に出たところだった。学内施設の利用方法や時間割の組み方、単位の説明……と、とにかく沢山の重要なことを説明された後だったので、頭の中で色々なことでごちゃごちゃとしていて、それ以外のことを考える余裕なんてなかった。 ?「あ、一年生だ。超ふらついてるけど大丈夫 突然ジャケットの袖口をぐいっと引っ張られた僕は、条件反射的に体を小さくビクッと震わせる。 「そんなに怯えないでよー、俺ら何もしてないじゃんー」 人を見た目で判断してはいけないと思う。だけど、高校時代までは周りにいなかったタイプの人間がいざ目の前に現れると、正直怖い。関わらないようにしてきたというのも勿論あるけど、海がそういう僕が怖がるような人達を寄せ付けないようにしてくれていたんだ、ということを僕は思い出していた。 「君さ、サークルは決めた?良かったら俺らと部室に来ない?」 金髪に近い茶髪の男がそう言う。 「無理です」だとか「時間がない」だとか、脳裏に思い浮かんだ言葉は沢山あった。海が僕の隣に駆け寄ってきて、「嫌がってるでしょ」と言ってくれないことも分かっていた。何よりも僕は、そんな他力本願な自分自身が一番嫌だった。 自分の意思くらい自分で表示しろよ、と心の中の僕が僕に告げる。 「…なあ、無視?」 冷徹な言葉が頭上から降って落とされる。 「無視じゃない!」という言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡ると共に、冷や汗が掌や背中にじんわりと滲み出す。 「…無視かよ、感じ悪いな」 その男性は袖口を強い力で引っ張ると、明らかに機嫌の悪そうな顔付きをしながら僕の顔を覗き込んだ。 心を抉るかのような冷徹な瞳と静かに目が合う。
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