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もしあの時、僕が海の腕を掴んでいれば―。
もしあの時、僕が犠牲になっていれば、僕が死んでいれば。
いいや、僕も死んでしまえたなら。
そうしたら良かったのに。
そうすれば、僕は透き通る真っ青な海に溶けてかけがえのない人と永遠にいられたんだろう。
彼の愛した海に、身を沈めることが出来たんだろう。
美しい波の音を立てる青にゆらゆらと揺られながら、彼とずっとずっと一緒に過ごすことが可能だったのかな?
……ごめんね、海。
手を離してごめんね。見放してごめんね。
苦しかったでしょ?寒かったでしょ?怖かったでしょう?
僕だけが助かって、ごめん。
謝っても何も起こる訳がないし、何も変わらないけれど、許しを乞う言葉を心の中で呟くことしかできない僕を、どうか許してください。
海が「好き」と言ってくれた僕の声は、音を紡ぎ出さない。
声のない僕に存在価値なんて全くないけど、勇気のない僕にとっては死ぬことが容易ではないから、僕は今ここにいる。
僕の海は、音を失ってしまった。
そして二度と、音を奏でることはない。
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