音のない青

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初めて海と出会ったのは、いつのことだったっけ。確か6歳になって直ぐのことだったかな。 今振り返ってみると、彼は幼いながらに僕のヒーローだった。同い年なのに、海は僕にとって立派な存在だったんだ。 「ぼくはささきうみ!君の名前は?」 差し出された小さな子供の手を、僕は絶対に忘れない。絶対に、永遠に。 隣の家に越してきた海と僕は、大人達の心配を他所に直ぐに仲良くなった。 「翡翠には海がついていないと駄目だし、海には翡翠がついていないと駄目ね。本当に仲良しなんだから」と言われるくらいに。 話すことがあまり好きではなく友達を作ることが苦手だった僕は、小学校でも一人でいることが多かった。 けれど海が僕の世界に現れてからは、僕は一人ではなくなった。そのことがとても嬉しくて堪らなかった。 「……あかみ、ひすい」 「よろしくね」の一言も紡ぐことが出来なかったのに、海は屈託のない笑みを浮かべながら「ひすい!よろしくな!」と溌剌と言ったんだ。 あの日から僕等は毎日一緒にいた。 海が僕の家に迎えに来て、二人で話しながら学校に行って。そして、帰ったら日が暮れるまで遊んで。 お互いの家に泊まることも日常茶飯事で、電気の消された真っ暗な部屋で海と小声で話すのが楽しくて仕方がなかった。彼と共に過ごす時は何をしていても笑顔が絶えず、楽しい時間の連続だった。 『……うみ』 案の定、僕の口からは無意味な小さな息しか漏れ出さない。 海が消えてしまってから声優の僕も姿を消した。声帯は震えず、音を紡ぎ出すことを忘れてしまった。君が与えてくれた存在理由は、君と共に消滅してしまった。 喋りたいんだよ。声を、出したいんだよ。 …だって、無価値じゃないか。 声のない僕に何の価値があるっていうの?死んだ方がよかったに決まってる。 冷たい海に落ちたあの時、どうして死ねなかったんだろう。何故僕だけが助かって、皆から必要とされる彼が命を落としたのだろう。考えても考えても理解することができない。どれだけ悩んでも悔やんでも。
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