音のない青

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高校一年の夏休み。それは、なかったことになればいい忌まわしき日だ。 海は大会に出場する為に遠征をすることになり、僕はその付き添いで彼に着いていくことになった。本当のことを言うと、海と離れることが耐えられなかっただけなのだけど。 プロのサーファーになるという夢を叶える為、海は日々努力を重ねていた。 名は体を表すとよく言うけれど、海の場合それが顕著に表象されていた。 「海」という名の通り限りなく広がる海の波に乗って、不安定な世界に揺蕩う。 僕は「サーフィンの何が楽しいの?」と幾度となく彼に尋ねたことがある。そして、決まって彼は言うんだ。 「理由なんてないけど、サーフィンは俺にとって生きる理由なんだよ」って。本当に好きなものに、理由は必要ないのだと。 僕にとって声が存在理由であったのと同様に、彼にとっては海が、波が、煌めく青が唯一無二の宝だったのだろう。 青に揺られる海は、あまりに綺麗すぎて目を離すことが不可能だった。 水面に散りばめられたら光が彼にキラキラと反射して、幽玄の美を醸し出していた。 ……ああ、神様。 純粋で優しい僕のヒーローを、どうして奪ったんですか? 僕が貴方の逆鱗に触れるようなことを、してしまったのでしょうか。 それとも、神様なんて最初から存在していなかったのでしょうか。 僕が生きる世界は思っている以上に凄絶で、惨い出来事の集まりなのですか? 『…どうして?』 無音を吐き出した所で、反響するものは何もない。 そう、何もないんだ。 僕が生きてきた意味も、これからの未来を歩む意味も。
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