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すると、その拍手に混じってこちらへ革靴で歩み寄る足音が近づいてきて、自撮り棒折るマンは背後を振り返る。そこにはカジュアルスーツを着こなした茶髪の男がおり、半笑いで立ち止まっていた。
「何だ貴様は」
「いつ来るかと思っていたが…まんまと餌に釣られてきたようだね。自撮り棒折るマン」
「貴様があの男をけしかけたのか…ならば貴様もジドリアンか!」
「いかにも!コードネーム『ムサシ』の名を知らぬ自撮り棒折るマンではあるまい!」
「『ムサシ』…だと…?」
顔こそ仮面に覆われてわからないが、声に明らかに動揺が現れた自撮り棒折るマン。膝に手をつき、肩を震わせる。
「どうした、臆したか」
「まさか。貴様のような悪烈なジドリアンに出会えた事への武者震いよ」
「そりゃ良かった。じゃあお手並み拝見といこうか」
すると、ムサシと名乗った男は腰から自撮り棒を取り出し、流れるような動きでスマホを装着し、高々と空に掲げた。反射的に自撮り棒折るマンも駆け出し、拳を振り上げる。
「自撮り棒を標的とした時のみ、パンチと蹴りの威力が1トンを超えるというそのパワードスーツの極地を!」
「目に物見せてくれるわ!」
踏み込んで正拳突きを放つ自撮り棒折るマン。しかしムサシはそれを悉くステップを踏んで回避し、あろうことかターンと同時に背を向けて自撮りの構えに入った。
「取った!」
隙を見つけた自撮り棒折るマンは、そのまま掲げられた自撮り棒目掛けてハイキックを放つ。蹴りの軌跡に赤い光が走り、さながら赤い流星だ。
しかし、その一撃が自撮り棒を蹴り砕く事はなかった。白いブーツが、どこからともなく伸びて来た黒く細い鉄の棒で止められたからである。
それは目をこらすと、空いた左手にいつの間にか握られていた『もう一本の自撮り棒』であった。自撮り棒折るマンの仮面の中から、僅かにくぐもった悲鳴が聞こえた。
「おいおい…そんなに乱暴したら写真がブレちまうじゃねえか…よォ!」
そして、その防御した自撮り棒を振り抜いて自撮り棒折るマンを横に凪ぐムサシ。手を交差して咄嗟に防御する自撮り棒折るマンだったが、数メートル吹き飛ばされただけでなく、その手袋からも煙が上がった。
「早速その奥の手を使ってくるとは…そちらも余裕がないのではないか?自撮り棒二刀流のムサシ」
「お前に手加減する程遊び好きじゃないんでね」
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