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自撮り棒折るマンはムサシが失策したと感じ、拳を握り固めて再び駆け出そうとする。しかし、己の影に巨影が映りこんだのを視認して即座に背後を振り返る。
するとそこには見事に花を蓄えた桜が傾がってきており、すでに木目までもがはっきりと見とれる程までに接近していた。
ムサシはわざと攻撃を外し、桜を破壊する事で自分を止めようとしたのだ。
そう気が付いた時にはもう遅く、自撮り棒折るマンの身体は樹齢数百年にも及ぶ桜の巨木の下敷きになり地面に叩きつけられた。メキメキと肋骨が悲鳴を挙げ、二度目の喀血をする。血液が桜花の如く飛散する中、ムサシはまたも高笑いしながら倒れ伏す自撮り棒折るマンへと歩み寄っていく。
「貴…さ、ま…よくも、桜を…!」
「ほおう、これは驚いた。自分を木で押し潰した事ではなく桜を壊した事に憤慨しているのか?どこまでもバカな奴だ!」
睨め上げる自撮り棒折るマンのマスクを踏みつけながら、ムサシはなおも高らかに叫ぶ。
「たかが枝一本!木一本!この自然公園にはこれほど美しい桜が何千本と咲き誇っているんだ…。たかが一本間引いた所で何の問題もあるまい!ただ花を咲かせ、散り、そして咲くを繰り返すだけの生命活動よりも、貴様の息の根を止める布石となり朽ちる方が何倍も有益というものだ!」
そしてムサシは自撮り棒折るマンの頭を片足で踏んづけたまま腰を下ろすと、自撮り棒をやや短くしてレンズをこちらへ向けた。
「連写モードに移行した。流石のお前もこれで上半身がハチの巣だぜ」
そう勿体ぶるような死刑宣告にも等しい事実を言い放つと、ムサシは余裕たっぷりに指を振りかぶった。
「これで終わりだ!自撮り棒折るマン!てめえの死に顔はSNSで拡散してやるぜ!!」
そして、無慈悲にもその指がスマホの画面に叩きつけられ、断頭台の紐が切って落とされたかのような錯覚に襲われた。
しかし、そのスマホが即座にフラッシュを焚く事はなく、ムサシの目が一瞬見開かれた。そしてその刹那、桜の巨木が傾き、赤い腕が自撮り棒をしかと握りこんだのだった。
「ヒッ!?」
「ふんぬぁぁあ!!」
そして激しい鬨の声が自撮り棒折るマンの血に汚れた口から放たれ、自撮り棒は飴細工のように簡単にひしゃげ、一拍遅れてからフラッシュが焚かれた。ムサシは折られた一本の自撮り棒を捨てると、飛び退くように慌てて距離をとった。
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