scene.1

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「うわ!!」 思いがけず、転びそうになった。 めったに転ばない私が!と、ふと足元に目を遣ると…。 「サンダルがああああっ!!」 サンダルの底がベローンと大きく剥がれてしまっている。 見るも無残なその姿に、私はガックリと肩を落とした。 「う~、このサンダル気に入ってたのに」 まさか底が剥がれるなんて。 可愛いと思って即買いしたけど、結構安かったもんなぁ…とサンダルを買った時のことを思い出す。 しかし、このままショック受けていても仕方がない。 私は家に帰るために、歩き出そうとした。 「うっ」 歩く度に、剥がれた底がコンクリートに引っ掛かって転びそうになる。 バランスを取るのがかなり難しい。 そして何より──人目が気になる。 壊れたサンダルを引きずってヨロヨロ歩いている姿は、かなり不格好だ。 裸足になろうかとも思ったけれど、夏のコンクリートの熱は、素足には耐えられない。 私はズルズルと歩きながら、途方に暮れていた。 「どうした?」 声がした方に顔を向けると、そこに斎の姿があった。 天の助けとばかりに、私は斎に泣きつこうとそちらに足を向ける。 その途端、剥がれた底に足を捕られた。 「うぎゃっ!!」 変な叫び声をあげて、私は大きくバランスを崩す。 間違いなくこけると思った。 しかし、私の身体は宙に浮いたまま。 いや…正確には、咄嗟に差し出された斎の腕に支えられていた。 「何をやってるんだ…」 斎は呆れたように呟く。 そんなこと言ったってさ。しょうがないじゃん。 私が悪いんじゃない。サンダルが悪いんだっ!! 「サンダルの底が剥がれちゃったの!!」 まるで駄々を捏ねる子供のような口調になった。 斎の前ではつい、昔のクセが出てしまう。 親や友達の前では見せなくなったこういった部分も、何故か斎にはいまだに見せてしまう。 それはきっと、私よりずっと速いスピードで大人びた表情をするようになった斎にも責任はあると思う。 斎は私の足元を見た。 …う。 そんなにマジマジ見られると、何だかとっても困るんですが。
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