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「これは…」
「見事でしょ?」
「…だな」
綺麗に剥がれたサンダルの底を見て、斎は微かに笑った。
斎の笑顔に嬉しくなって、訳もなく得意げな気持ちになる。
どこにも得意になる要素なんてないのに。
そう、こんなところも、私は斎の前ではついつい子供に戻ってしまう。
「だからね、こけそうになったって訳」
「なるほどな」
「で」
「……面倒を見ろってことだな」
小さく息をつく斎を見て、更にテンションが上がる。
さすが幼馴染。
わかってるじゃない!
私はコクリと、満面の笑みで頷いた。
斎はそんな私を見て、仕方ないなといったように背を向けた。
「何?」
斎が屈む。
「おぶされ」
「え?」
「そのままじゃ、歩きづらいだろう」
「いや…まぁ…そうなんだけど」
面倒を見てもらいたかったのは確かだけれど、肩を貸してくれる程度でと思っていた私は、予想に反する斎の行動に面食らう。
えと…どうしようっ!!!
私がモタモタしていると、斎はクルリと振り返って私の腕をグイと引っ張った。
「わっ!!」
私は自然、斎に倒れこむ形になり、その隙に斎は私を軽々と背負う。
うわっ!!不意打ちっ!!なんて卑怯なっ!!
いや、それは違うだろうと、自分ツッコミを入れながら、私は斎の背におぶさることになった。
「サンダル、脱いだ方がいいんじゃないか?」
「あ」
それもそうだと思い、腕を伸ばしてサンダルを脱ぐ。
そして、今更ながら気付いた。
斎は部活の帰りで、ラケットなどの荷物もあるのに私を背負っているのだ。
うわー…申し訳なさすぎる。
でも、下りようとしても絶対に下してくれないことはわかっている。
世話を焼いたら、最後まで面倒を見るのが斎なのだ。
それがわかりすぎるほどにわかっているので、私は大人しくしていることにした。
斎がスタスタ歩く度に、背が揺れる。そして、私も同時に揺れる。
その揺れが、すごく心地いい。
軽く上下する動きが、とても懐かしくて…。
そう言えば、小さい頃もよくこうやっておんぶしてもらってたっけ。
転んで怪我をした時。
いじめっこにいじめられた時。
お母さんと喧嘩して、家を飛び出した時。
その度に、私は斎の背中から元気を貰っていたんだった。
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