scene.1

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「これは…」 「見事でしょ?」 「…だな」 綺麗に剥がれたサンダルの底を見て、斎は微かに笑った。 斎の笑顔に嬉しくなって、訳もなく得意げな気持ちになる。 どこにも得意になる要素なんてないのに。 そう、こんなところも、私は斎の前ではついつい子供に戻ってしまう。 「だからね、こけそうになったって訳」 「なるほどな」 「で」 「……面倒を見ろってことだな」 小さく息をつく斎を見て、更にテンションが上がる。 さすが幼馴染。 わかってるじゃない! 私はコクリと、満面の笑みで頷いた。 斎はそんな私を見て、仕方ないなといったように背を向けた。 「何?」 斎が屈む。 「おぶされ」 「え?」 「そのままじゃ、歩きづらいだろう」 「いや…まぁ…そうなんだけど」 面倒を見てもらいたかったのは確かだけれど、肩を貸してくれる程度でと思っていた私は、予想に反する斎の行動に面食らう。 えと…どうしようっ!!! 私がモタモタしていると、斎はクルリと振り返って私の腕をグイと引っ張った。 「わっ!!」 私は自然、斎に倒れこむ形になり、その隙に斎は私を軽々と背負う。 うわっ!!不意打ちっ!!なんて卑怯なっ!! いや、それは違うだろうと、自分ツッコミを入れながら、私は斎の背におぶさることになった。 「サンダル、脱いだ方がいいんじゃないか?」 「あ」 それもそうだと思い、腕を伸ばしてサンダルを脱ぐ。 そして、今更ながら気付いた。 斎は部活の帰りで、ラケットなどの荷物もあるのに私を背負っているのだ。 うわー…申し訳なさすぎる。 でも、下りようとしても絶対に下してくれないことはわかっている。 世話を焼いたら、最後まで面倒を見るのが斎なのだ。 それがわかりすぎるほどにわかっているので、私は大人しくしていることにした。 斎がスタスタ歩く度に、背が揺れる。そして、私も同時に揺れる。 その揺れが、すごく心地いい。 軽く上下する動きが、とても懐かしくて…。 そう言えば、小さい頃もよくこうやっておんぶしてもらってたっけ。 転んで怪我をした時。 いじめっこにいじめられた時。 お母さんと喧嘩して、家を飛び出した時。 その度に、私は斎の背中から元気を貰っていたんだった。
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