霊感無し

1/1
前へ
/1ページ
次へ

霊感無し

 ホテルに泊まったら、隣の部屋から壁を叩いてくる音が聞こえた。  あれ? 俺の部屋は角部屋で、確か隣なんてものはない筈だ。  そう思った途端、自分が怪現象に遭遇しているのだと自覚した。  霊感なんて皆無だから、これまでこういったこととは無縁だったのに、ついに俺も霊体験をすることになったのか。  しかし、壁を叩かれるって地味だな。  俺のイメージしてた霊体験は、もっとこう…枕元に幽霊が立ってるとか、室内の物が動くとか、金縛りとか、そういう感じだったんだが、壁を叩く音ってなぁ。  でももしかしたら、この、壁を叩くって行為に、何か凄いドラマがあって、死してなお訴えてるという可能性もある。だから『たかが』と思うのはよくないよな。  そう結論づけて、俺は、ひたすら続く壁叩きを、さらりとBGMにした。  風呂に入り、缶ビールを片手にまったりと一時。ああそうだ。友達に電話をする約束してたっけ。  スマホの履歴から相手を選び、電話をかける。しかし通じたと思った瞬間、通話は瞬間芸で断ち切られた。  すぐにかけ直すが繋がらない。  電波異常でも起きているのだろうか。だったらもう少し待ってからかけ直すとしよう。そう思っていたら向うからメールが来た。 『お前、どこで何してるんだ? 後ろで響いている、超恨みがましい呪いの文句や悲鳴みたいのは何だ?  とりあえず、それが聞こえないトコに行け。電話はその後かけ直せ』  えーっと、つまり、俺には壁を叩く音しか聞こえてないけれど、友達には、電話越しでも、それだけの霊的音声が響きまくった、と。  霊感なんてない方がいいと、俺はつくづく思った。  ああちなみに、一晩中壁を叩く音はしてたみたいだけど、俺はこの部屋で充分熟睡できたから、ホント、霊感なんてない方がいいんだろう。 霊感無し…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加