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大嘘吐き
「暇ってある意味拷問だよなぁ」
これから生徒になる少年がつぶやく。
「入学式中にそんなこと言わないの」
隣に座っている少女が横目で見ながらその言葉に反応する。
そんなやり取りを繰り返しているうちに学院長のあいさつが始まった。
「まずは、入学おめでとうと言わせてもらおうかの。妾はこの学院の長を[夜桜月影]という。この中にはすでに妾を知っている者もおるじゃろう」
きれいな黒髪、それに相反するような白い肌、喋り方を表現したような和服を身に纏った女がそこにはいた。
「知ってるもなにも...、あの女を知らないやつなんざいないだろ。なんであんなやつがいるのに人類が追い詰められてるのやら」
「あの人って[人類最強種]だよね」
少女が小さくそう呟きながらじっと[夜桜月影]を見続けている。
「変な気を起こすなよ、詩織。あいつは[人類最強種]、その中の頂点。まぁ、言ってしまえば誰もが認める強さを持っている...人類最強だ。現時点であれより強い人類はいない。とびかかっていったらさすがのお前も痛い目見るぞ」
「...負けない」
次の瞬間、詩織の姿が消えた。
「はぁ...。でもまぁ、人類最強の力、少しは見れるか...」
詩織の姿が消えるのとほぼ同時にステージが爆音をあげて砕けた。
「良い力じゃのう。なかなか気合の入った新入生で嬉しいぞ」
土煙の中で月影は何事もなかったかのように微笑んでいる。
「...詩織の奇襲をものともしないのか」
ステージの近くにいた新入生たちはあまりの衝撃にパニックになっている。
月影が体を動かすたびに爆音が鳴り響く。
「...まじかよ。全部見えてるのか」
少年は詩織の法則を知っている。だからこそ目の前で月影が無傷で立っていることに驚愕しているのである。
詩織が消えたように見えたのは、[音速]、つまり音と同じ速度で動いているからである。
[速度改変]、それが詩織の法則。
これは助走なしでも一瞬で音速という速度に到達することができる。
そのため、詩織が消えたように見えているのである。
(だが、それをあんな簡単に避けるってことは...、見えているのか...、音速が...)
ボロボロになったステージの上では詩織が息を切らしながら月影を睨み付けているが、何度も異能を使っているため体力は限界に来ていた。
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