第1章

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「この赤いのは、くうの一番な電車?」 くうの正面に腰をおろして、ポツリと問うとくうは微かに頷いた。 静けさの中、時計の音がよく聞こえて、まるで何か急き立てられるような焦りを感じた。 強ばった表情で黙ったままの5歳の男の子は、一体何を考えているんだ…? お腹すいた? 疲れた? 眠たい? そんな単純なことであればいい…。 「くう、こわい?」 "こわい"と尋ねたことに確証はなくて、どこから出てきた言葉かも、正直よくわからなかった。ただなんとなく、この場の空気のせいだろうか。 「…くうは今、ここが苦しいか?」 そう言って伸ばした手は、拒否されなかった。指先でトンと、くうの懐辺りに触れてみた。 それから間もなく、床のカレンダーにポトンと何かが落ちる音がした。 「ママ…帰ってくる?」 ようやく聞こえた声は、押し殺すようにか細かった。そしてまたポトンと音がした。 「…帰ってくるよ」 「いつ…?」 「オレにもわからない」 小さな肩と頭部があわせて震えていた。 「ママ…元気になる?」 「うん、元気になるよ」 元気で帰ってくるって保証をしても いいのか。 "絶対"が存在しない世の中で…。 だけどこの子どもには、一般的な理想のイメージを伝えたかった。
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