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「この赤いのは、くうの一番な電車?」
くうの正面に腰をおろして、ポツリと問うとくうは微かに頷いた。
静けさの中、時計の音がよく聞こえて、まるで何か急き立てられるような焦りを感じた。
強ばった表情で黙ったままの5歳の男の子は、一体何を考えているんだ…?
お腹すいた?
疲れた?
眠たい?
そんな単純なことであればいい…。
「くう、こわい?」
"こわい"と尋ねたことに確証はなくて、どこから出てきた言葉かも、正直よくわからなかった。ただなんとなく、この場の空気のせいだろうか。
「…くうは今、ここが苦しいか?」
そう言って伸ばした手は、拒否されなかった。指先でトンと、くうの懐辺りに触れてみた。
それから間もなく、床のカレンダーにポトンと何かが落ちる音がした。
「ママ…帰ってくる?」
ようやく聞こえた声は、押し殺すようにか細かった。そしてまたポトンと音がした。
「…帰ってくるよ」
「いつ…?」
「オレにもわからない」
小さな肩と頭部があわせて震えていた。
「ママ…元気になる?」
「うん、元気になるよ」
元気で帰ってくるって保証をしても
いいのか。
"絶対"が存在しない世の中で…。
だけどこの子どもには、一般的な理想のイメージを伝えたかった。
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