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シャコシャコシャコ…。
洗面所から聞こえる歯ブラシの音。
数分前の取っ組み合いが嘘のように、姉とその息子、くうやが二人で歯磨きをしている。
「はぁ…」
(やっぱり来るんじゃなかったかな)
青年ケイはスーツの上着を脱いだ格好のまま、リビングのソファーに腰掛けてネクタイを緩めた。
姉の家に来るのは2回目。
5年前、産まれたばかりのくうやと姉夫婦がこのマンションへ引っ越す際、荷物の運び出しを手伝わされた時以来だった。
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実家暮らしのオレは、正直子どもは苦手だった。
嫌いというわけではないにしても、出来る限り関わりたくないと思う程度に。
今日のような強風で、帰りの電車が止まりさえしなければ、まずここへ来ることなどなかったろう。
今日中の運転再開はかなり絶望的だと、実家のTVをみた母から連絡があった。
実家までの道のり約1時間強、
姉の家までの道のり約15分。
この伝は有効利用すべきだと思っていたが、一度私情を受け入れてしまえば、後悔の念でいっぱいだ。
(寝るだけ…明日の出勤まで…。………あぁそれなのに…。)
スマホが表示した新着メッセージ。
上司からのものだった。
『強風によって倒れた木が会社の電気回路をショートさせたらしい。明日の出勤は連絡あるまで保留』
(…一体どうなる、オレの明日…)
リビングのTVからは、"大型で非常に強い勢力の…"なんて決まり文句と、最大瞬間風速47メートルもの暴風…というイメージしにくい情報が繰り返されていた。
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