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「これから明け方にかけて、温帯低気圧に変わるらしいよ」
無事に歯磨きを終えた姉が、戻ってくるなりオレの頭にバスタオルを被せてきた。
「へぇ。最近はよくあるねぇ、そんなん。ところでオレ、明日の仕事が連絡待ちになった」
「ふーん。まぁ、あたしらは別に用もないし構わないけど。とりあえず風呂入ってきな」
「んー、どぉも」
よいしょと腰を上げると、姉の後ろに隠れていた甥っ子が、警戒モードでじっとオレを見上げていた。
子どもは苦手だが、こういう時無視もできない…。
「…こんばんは」
声をかけられた甥っ子は、更に一歩、母の後ろに身を引く。
(はぁ…)
心の中でため息ひとつ。
「くう、おじちゃんにご挨拶は?」
「……。」
「……。」
…………………沈黙。
あぁ、耐えがたい…っ。ていうか、
「おじちゃんはやめて」
「えー?じゃぁなんて?」
そんなんこっちだってわかんないけどさ。
とりあえず、膝を曲げて同じ目線に合わせてみる。
それくらいは知ってる。
「こんばんは」
「………んは」
かろうじて反応あり!殆ど口パクだけど!!さぁ、ここからどうする、オレ。
「ケイっていいます」
「…」
「お邪魔してます」
……あぁ、なんてぎこちない。
オレの作り笑いはどのくらいひきつっているだろうか。
とりあえず挨拶は一通りしたし、もういいか。
そう思って立ち上がろうとしたタイミングで、小さな声が耳に入った。
「けーきゅーの、ケイくん?」
「は…?」
舌足らずで何を言われたのかと思ったが、子ども相手に無粋な反応をしてしまった。
「あぁ、あんたのネクタイね。」
「ママこれ、ブルースカイトレインだよ!」
甥っ子が釘付けになっているのは、オレの身に付けていたネクタイで、それは濃いめのブルーにホワイトのラインが斜めに入っていた。
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