第1章

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「そこの京急線ね、赤以外に、数は少ないけど青もあるのよ。くうはすっかりご執心なの」 「これだよー!」 いつの間にどこから持ってきたのか。 オレの腰程にも満たない身長の甥っ子が、自分の姿が隠れそうな程の大きさのカレンダーを持って見せた。 それは恐らく壁掛けの、昨年のものだった。 「へぇ。こりゃまた確かに、随分そっくりな色合いだな。白は少ないけど」 思わず感心すると、 「海とねー、空の色なんだよ!ヒコーキのとこまでいくよ!」 踵を上げて一生懸命にそれを掲げている甥っ子は、 話し方はたどたどしくとも、妙に得意気な様子。 それでねーと言いかけたところを、姉が静かに彼の背後をとって静止させた。 というよりは、抱き付いて動きを封じたと言った方が合っている気がする。 スッとカレンダーを甥っ子の手から引き剥がす流れは、見事にスムーズなものだった。 「くーう、もう寝よーよ」 「んー?後でね。」 「くう、もうママ眠ーい」 「じゃあママは先に寝てていいよ。」 (いや、それはやめて!二人にしないで!) つい心の中で全力で突っ込むと同時に、ガチャンと玄関が開いた音がした。 「ただいまー」 「あ、パパー!」 甥っ子は一瞬で姉の腕からすり抜けると、あっという間にかけていった。 そのタイミングを逃すまいと 「あんた、とっととお風呂行っちゃって!」 とけしかけられて、そそくさと風呂場へ。 お義兄さんに会釈をすると、状況がわかるのか、ヒラヒラと手を振って笑っていた。 戻ってきた頃には、甥っ子は夢の中だった。
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