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「そこの京急線ね、赤以外に、数は少ないけど青もあるのよ。くうはすっかりご執心なの」
「これだよー!」
いつの間にどこから持ってきたのか。
オレの腰程にも満たない身長の甥っ子が、自分の姿が隠れそうな程の大きさのカレンダーを持って見せた。
それは恐らく壁掛けの、昨年のものだった。
「へぇ。こりゃまた確かに、随分そっくりな色合いだな。白は少ないけど」
思わず感心すると、
「海とねー、空の色なんだよ!ヒコーキのとこまでいくよ!」
踵を上げて一生懸命にそれを掲げている甥っ子は、
話し方はたどたどしくとも、妙に得意気な様子。
それでねーと言いかけたところを、姉が静かに彼の背後をとって静止させた。
というよりは、抱き付いて動きを封じたと言った方が合っている気がする。
スッとカレンダーを甥っ子の手から引き剥がす流れは、見事にスムーズなものだった。
「くーう、もう寝よーよ」
「んー?後でね。」
「くう、もうママ眠ーい」
「じゃあママは先に寝てていいよ。」
(いや、それはやめて!二人にしないで!)
つい心の中で全力で突っ込むと同時に、ガチャンと玄関が開いた音がした。
「ただいまー」
「あ、パパー!」
甥っ子は一瞬で姉の腕からすり抜けると、あっという間にかけていった。
そのタイミングを逃すまいと
「あんた、とっととお風呂行っちゃって!」
とけしかけられて、そそくさと風呂場へ。
お義兄さんに会釈をすると、状況がわかるのか、ヒラヒラと手を振って笑っていた。
戻ってきた頃には、甥っ子は夢の中だった。
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