2【木島】

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木島は…本日、回る予定の客先を順に訪れ、出来上がった印刷物の納品、そして新たに受注した仕事の打ち合わせと、今日の仕事をこなして行った。 「さてと。次は、隅田さんの会社だな」 隅田は、木島の印刷会社の得意先『〇〇出版』の営業部長だ。 木島は『〇〇出版』へと車で向かった。 ところで、木島はたまに学生時代の友人なんかから「印刷会社と出版社って仕事内容が違うの?」なんて質問をされる事が有るが、 印刷と出版じゃ全く業務内容が違う。 むしろ『畑違い』と言っても良いだろう。 『〇〇出版』は、木島が働く印刷会社の大のお得意様であった。 特にそこの営業部長、隅田は木島の事を凄く可愛がってくれる。 実は、木島が印刷工場から営業部へ転属願いを出して営業マンとして新たなスタートを切った時、 自分で転属を願い出たとは言え、営業について右も左も分からない木島は、相当に苦労をした。 先輩の営業マンからもいろいろと教えられたが、どうも木島はそれを十分に吸収しきれずにいた。 そんな時、仕事を覚えようと必死になっている木島の姿を見て気に入ってくれたのか、あれこれと熱心に営業について教えてくれたのが、他でもない得意先の営業部長、隅田だったのだ。 「良いかい。木島君。 腰が低いというのとイエスマンは違うんだ。 お客様の要望を何でもそのまま引き受けるんじゃなくて時には、できない事はできないとキッパリと断るくらいの方が、逆にお客から信頼される。 もちろん、その代わりにできると引き受けた仕事は必ず成し遂げた上での話だ。 『あの営業マンさんは、引き受けた事は必ずやってくれる。だから、あの人ができないって言うんなら本当にできないんだろうな』とな…。 要は、お客様のご要望を迅速に的確に捕らえ、それを踏まえて、かかる費用と工程を頭に瞬時に描き出せる技術が信頼を得るのには必要なんだ。 ただただ必死に頭を下げ続けるだけじゃ駄目だぞ。逆に、こちらからあれこれと提案するぐらいじゃないとな」 隅田の教えは、木島にとって凄く勉強になる物で…月日が経つにつれ、いつしか、木島もあちこちの顧客から信頼される営業マンへと成長していた。 「あの人には、頭が上がらない…って言うか、勝てないよなぁ」 と、木島は隅田の顔を思い浮かべながら『〇〇出版』へと向かった。
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