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とある休日。
妻が夕飯の支度をしながら声を掛けてくる。
「ねえ、醤油が無くなっちゃったから買ってきてよ。あっ、卵と豆腐もお願い」
「はいよ」
財布を持って玄関のドアを開けると、予想外の出来事が待っていた。
「パパ、もう大丈夫。レナに任せて!!!」
「……何が大丈夫なんだ? それと、いつの間に外へ出たんだ?」
右手にはおもちゃのお金、左手には小さな買い物かご。首にはママが使うエコバックを掛け、お出かけ用の帽子を被ったレナが待ち構えている。
「すぐ帰ってくるから、レナはお留守番してろ」
その言葉を聞くと、レナは私に近づき耳打ちした。
「お菓子買ってくれたら、後でチュウしてあげるよ!」
「……そんな台詞、どこで覚えたんだ?」
「うーんとね。ママが見ていたテレビ番組で、綺麗な服を着たお姉ちゃんが言ってた!」
「そうか……連れてってやるから、その言葉は忘れるんだ。いいな?」
仕方なくレナを連れ、近くのスーパーへと車を走らせる。
スーパーに着くと真っ先にお菓子コーナーへと走って行くレナ。
「パパ、これがいい!」
レナが差し出した物は、おまけが豪華な300円もするお菓子だった。
「レナ、よく聞くんだ。これはお菓子が美味しくない。それよりこのマシュマロなんて絶品だぞ?」
「いやっ! それは子供が食べるお菓子だよ。レナは4才だからね。そんなお菓子じゃ納得いかないよ!」
1年前までは問題なかったのに、とうとう30円で4個入りのマシュマロでは納得してくれなくなった。
ここで妻がいればレナを説得出来たかもしれないが、残念ながら私しかいない。
誰か助けてくれ。
すると偶然居合わせたご近所のおばさんが声を掛けてきた。
「あら、レナちゃん。こんにちは。お父さんにお菓子買ってもらえるのね。こんないい物を買って貰えるなんて良かったわねえ」
余計な事を言いやがって。
頭ではそう思いながらも、私は笑顔で頭を下げる。
そして引くに引けなくなり、高価なお菓子を買ってしまった。
――帰宅すると、私とレナは予想通りの言葉を浴びる。
「何でこんな高いお菓子を買ったの!? 甘やかしちゃ駄目でしょ! レナもご飯を食べずにお菓子ばっかり食べてるじゃない! これは没収します!」
こうして私とレナは力尽きた。
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