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散々な一日に耐え、私は家路を急ぐ。
邪魔しかしないお局様と、仕事を増やすことしかしないアホ専務は、あとで私の『この世から消すリスト』に入れてやる。
おなか空かしてるだろうな、あの子たち。
上のサユミは10歳の女の子、下のタクミは5歳の男の子。
サユミがタクミの面倒を見てくれるから、私は何とかフルタイムの仕事に戻れたけれど。
心細い思いをさせているに違いない。
もどかしくアパートの鍵を開けて、部屋に飛び込む。
少しだけ香ばしい匂い。
「!」
端っこが黒くて黄身が不定形のおそらく目玉焼き。
みずみずしい覚えたてのポテトサラダ。
ソファの下にはおもちゃがごっそり押しやられていて、押し入れからは紙くずがちょろりと覗いている。
台所は見ちゃダメだ。
テーブルに突っ伏していたサユミが、ヨダレをすすり上げながらこちらを見た。
焦点が定まっていない。
タクミはヘソ丸出しで夢の中だ。
「サユミぃ、タクミぃ」
「お母さん母の日おめでとうくるじい」
「くぇっ」
私は、サユミとタクミを中身が出ちゃいそうなくらいに抱きしめた。
【完】
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