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「起きろハジメ!三度目を言わせたらタダじゃおかないよ」
「うるせクソ……」
オレの口がババァのバの形を作る前に肘が打ち下ろされた。
くぐもった音を立てて、枕が可哀相なくらいにへこんだ。
「しぬから。それくらったらオレの歯吹っ飛ぶから」
「ババァまで言ってたら一本残らず叩き折ってたよ、風通し良くならずに済んだねぇ」
そう、オレの母ちゃん武闘派。
最先端ヤンキーの残り香は、今でも濃厚だ。
腕っぷししか取り柄のない父ちゃんですら、口数と手数じゃ絶対にかなわなかったらしい。
「ハジメー」
玄関から、空気の抜ける風船みたいな掠れた声がした。
「ほれ、ユウジ迎えに来たぞ。あの子は感心だね」
友達のユウジは、母ちゃんのお気に入りだ。
朝は早くて挨拶だけはちゃんとしているからだ。
「おうユウジ、今日も決まってるね」
「ハジメの母ちゃんおはよーす。あざーす」
弁当しか入っていない落書きだらけの鞄に、激しい改造と年季の入った学ラン。
一緒に歩くとオレまで誤解されるので、本当のことを言えばユウジとはつるんでいたくない。
意外ではあるが、この格好を除けば真面目な男なのだ。
ユウジはいつも誰かに喧嘩を売っているように見える。
けれども、授業もちゃんと聞いているし、誰とも友達になりたいタイプなのだ。
成功しているとは決して言えない。
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