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オレたちが通っている中学校は、この辺りでは悪い方で三本の指に入る。
頭が良くて、家庭に余裕がある奴なら私立に通うというくらい避けられていた。
入ってしまえば、何と言うこともなかった。
オレの場合は母ちゃんが周りから知られていたし、ユウジには特技があった。
「うぉい、ユウジ。おれの鞄頼む」
「ハーイ、色は?」
「青」
ユウジは、親父さんの工場から盗んできた青のペンキを取り出して、じかに先輩の鞄に『酒池肉林』と書き込んだ。
意味はともかく、四字熟語を無駄に格好良く書くことにかけては、ユウジはピカイチなのだ。
「すげー!ユウジ、また頼むぞ」
「いつでもどぞー」
先輩は、ユウジの好物のサラダパンを一つ置いていった。
分けてもらったパンの端っこをかじりつつ、オレはユウジに聞いた。
「先輩の鞄なんて怖くねぇ?失敗したらボコボコにされるぞ?」
「俺は失敗しないもん。気に入らなくてもアッ、て顔しなきゃわからんさ。親父のとこに来るお客さんと比べたら先輩なんてカワイイしさ」
ユウジの親父さんの周りはとんでもなく怖いおっちゃんばかりだ。
感覚がすっかりおかしくなってるんだろう。
コイツが頼もしいのか鈍いのかは良くわからない。
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