好敵手

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とは言うものの、何もしないわけにはいかない。 ユウジは怠そうに部室へと向かう。 「ハーイ、アリハラ君、今日はどんよりだね」 アリハラはユウジの苗字で、声の主は同級生のイワイだ。 イワイなのに変に明るい葬儀屋の息子と言うカオスっぷり。 「いいか、イワイ。部対抗リレー、死ぬ気で走れ」 「え、ヤダ。何イキナリ。練習前に疲れることなんて極力したくないもーん」 ふざけてはいるが、イワイは速攻の名手で、その気になれば陸上部の短距離の選手よりも速い。 「マジな話すれば、お前がマジメに走れば、いくらフジサキが鈍足でも勝ち目はあるんだよ」 ユウジの言葉に、イワイはちょっとだけ真顔になった。 「お前もマジメにやるってんなら考えるよ。マツタニも怖い顔のわりに速いから……」 結果からいえば、惨敗だった。 ユウジとシノブは、来客席からパイプ椅子を持ち出す場外乱闘で両者ともに失格。 それから一週間、バレー部員もバスケ部員も、地獄の底のさらに底を見た。 彼らはこれを「死の七日間」と呼び、決して語ることはなかった。 【完】
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