0人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜、私は書斎に居た。ひたすらディスプレイに向かう、いつもの仕事の時間。
「……だった、と。よし」
ここまで書いた文章に目を走らせ、保存をかける。
今日は随分と筆が進んだ。これならば締め切りまでに書き上げられるだろう。
(さて、そろそろ寝るか)
思い切り伸びをして、凝り固まった肩や背中の筋肉を解す。終了の操作をした所で、ふと背後から気配を感じた。
おかしい、この部屋には私しか居ない筈。けれど感じるのだ、私以外の気配を。
振り返るのが怖い。でも確かめないと。
恐る恐る後ろを振り返る。
スタンドの光がギリギリ届かない闇の中。そこに、じっとこちらを見つめる真っ黒な目があった。
「ひっ……」
喉から小さな悲鳴が漏れる。
奴はドアの前に居た。この部屋で唯一の逃げ道の前に。
いつの間に部屋に入り込んだのか。集中していて全く気が付かなかった。
互いに睨み合ったまま、時が流れる。ほんの数秒間だったのかもしれないが、私にはひどく長く感じた。
先に痺れを切らしたのは奴の方だった。
その場から飛んで、私との距離を一気に詰めて来たのだ。
慌てて手元を探る。対抗しうる得物は、何も無い。
駄目だ、もう逃げられない!!
「誰か助けて!」
それでも私は叫んだ、有らん限りの声を出して。
最初のコメントを投稿しよう!