episode194 花村教授と秘密の講義②

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「敬はこのこと?」 「あの人は知りません」 僕がそう言うと 不安げな表情が少しだけ和らいだ。 「あなたの書いた本を褒めてた」 「え?」 「処女作――彼に読ませたでしょう?ありえないぐらいロマンティックで素晴らしかったって」 瞬きを忘れ 頬が赤らむ。 「だからあなたにキスしたと――」 きっと九条敬は彼の中で 永遠に純粋なシンボルなのだ。 「安心して。彼に何も言うつもりはありません。思い出は美しくが僕の信条だから」 僕の原稿にコーヒーが浸みてゆく様を 虚ろな瞳で眺めながら。 「まいったな」 先生は自嘲気に笑った。
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