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「結婚もして子供もできた。思っていた通りの仕事に就き、僕の人生はすべて順調だ。でも正直――」
先生はもう
僕が生徒であることさえ忘れたように。
「満たされないんだ――あの時以上に満たされたことはない」
長年の友人に語るみたいに
胸の内を語り出した。
「仕方ないよ。14の彼」
誰かにとっては
九条敬もまた。
「あなた、一番綺麗な薔薇の棘に触れたんだ」
僕と同じ
猛毒の薔薇だったわけで――。
「一生分のギフトと思えって?」
一層シニカルに
花村先生は肩をすくめた。
「あれ以来、どんな感情も虚飾にすぎないと思うと虚しくて」
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