第1章

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未来がどんどん過去になって、過去がどんどん積み重なって、いつかこの記憶が古惚けてしまって…。 そしてふとした時にまた手に取ってみるのも悪くないのかもしれない。 埃を綺麗に落として、ああこんな過去もあっなってまたあの夏を何度でも思い出すんだ。 「私も、楽しみにしとく」 陽が少しだけ傾いて、影の形が変わる。 私たちは止めていた足をまた違う何処かに向けて踏み出した。 「それで先輩、彼氏欲しいなとか思いません?」 「何言ってるのよ。今まだ引きずってるって話したばっかりじゃない」 彼のお茶目な質問に私は呆れ声で返す。 すると彼はまた少し悪戯っぽく微笑んで、「引きずってるんですね」と揚げ足を取ってきた。 言葉にするとなんだか格好が悪くて恥ずかしい。私はそっぽを向いて呟いた。 「当分彼氏なんて要らない」 どうせ出来ないし、という言葉はさすがに飲み込む。あまりに惨めだ。 しかし彼はまたもふっと息を吐くような笑い声を漏らすとただ「そうですか」と囁いた。 私は大きく伸びをして、振りかざした手のひらを見上げる。 空は綺麗に青くて、雲の形が白くはっきりと浮かび上がっていた。 初夏の香りがする。 思い出に光る、懐かしい香りだった。
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