あの花は誰に会いに行くんだろう

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1.  僕の平日は昼から始まる。家の最寄駅、京急線泉岳寺駅から快特電車に乗って汐入駅へ。バイト先であるバーまでの道のりだ。  土日は朝から京急川崎駅へ。知人が経営する絵画教室で油絵の講師をしている。  このルーティンも、もう三年になるだろうか。  気が付けば二十七歳、田舎の友人たちはさっさと結婚して、早い奴は小学生になる子供がいる。平成二桁生まれだなんて考えただけで恐ろしい。  せめてもの救いは、就職せずにのらくらと過ごしている、美大の同期たちがいることだ。学費の返済という義理のもとではあるにせよ、ひととせ休みなく働く僕は、まだましな方なんじゃないかと思っている。  何者にでもなれるとはもう思っていない。だけど見切りもつけられない。  くだらない自尊心は焦りを生むばかりで、毎日少しずつ血液中の酸素量が減っていく。  そんな息苦しさから僕を救ってくれるのが、『花を愛でる人たち』だ。
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